富猫堂

吉祥寺・井の頭公園にあるネルドリップ珈琲の店 トムネコゴ の店主のブログ

『山山』と波の音

地点の『山山』を観た。
開いた口が塞がらなかった。
それが塞がった時にはもうすでに幕は降り、気がつくと、私は一人会場に取り残されていた。
呆然として、誰も居なくなった舞台を静かに眺めていた。
体には軽い疲れ。心には微かな震え。
ある種の感動は言葉にするのに時間がかかる。
それは人を無口にし、思慮深くさせる。
身内で何かが芽吹き、何かが胎動するのを感じる。
でも、まだ、言葉は生まれて来ない。
私は大きな溜め息をついて席を立ち、少しよろめきながら会場を出た。
「ありがとうございました。」
背後でそんな声が聴こえた。

地点の劇にはいつも新鮮な驚きと無口への誘(いざな)いがある。
それは帰り路、お互いへの態度となって表れる。
無口な二人。帰れない二人。傘は…要らない。星が出ているから。
「海の匂いがする。」
不意に呟かれた連れ合いの言葉でここが海に近い場所だと気づいた。
私は立ち止まって深呼吸をし、夜の空気を胸一杯吸い込んでみた。
そこには微かに磯の香りが混じっている。
そのまま目を閉じ耳を澄ます。
すると微かに聴こえて来るのは、遠い、茅ヶ崎からの波の音。
そんな気が、フと、した。

 

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