富猫堂

吉祥寺・井の頭公園にあるネルドリップ珈琲の店 トムネコゴ の店主のブログ

八月のレクイエム

蝉の声が聴こえる 遠くの方から聴こえる
空気を震わせ 風に乗って 寝ている耳に優しく響く
それは自然がもたらす耳ざわり
思わず “むにゃむにゃ”と口が動く
耳に心地良く つい“うとうと”してしまう

風が吹いてくる 遠くの方から吹いてくる
森を抜け 街を抜けて 寝ている頬を優しく撫でる
それは自然がもたらす風ざわり
思わず “ぴくぴく”とヒゲが震える
風は心地良く つい“うとうと”してしまう

陽が射してくる 遠くの方から射してくる
空を越え 雲を越えて 寝ている体を優しく照らす
それは自然がもたらす陽ざわり
思わず “すやすや”と寝息を立てる
陽は心地良く つい“うとうと”してしまう

気配を感じる 直ぐ側に気配を感じる
名が呼ばれ 手が伸びて 寝ている背中に優しく触れる
それは人間がもたらす手ざわり
思わず “ごろごろごろ”と喉が鳴る
世界は平和で つい“うとうと”してしまう

「言葉は人間のもので 沈黙は宇宙のもの」
これはある詩人の言葉

ならば僕は沈黙し その代わりと言っては何だが
モーツァルトの『アヴェ・ヴェルム・コルプス』を聴く
繰り返し繰り返し 何度も何度も 聴く
そうして この宇宙の何処かにいる “彼”のことを想う

やがてその音楽は 蝉の声や 風や陽と混ざり合い
八月のレクイエムとなって 部屋を静かに満たしていく

声が聴こえる 僕の耳元で 声が聴こえる

 ーPにー

f:id:naotaira:20170829222130j:plain