富猫堂

吉祥寺・井の頭公園にあるネルドリップ珈琲の店 トムネコゴ の店主のブログ

『かうひいや3番地』

その喫茶店は駅から離れた場所にひっそりとあった。街の喧騒を離れ、商店街を過ぎた辺りに、静かに存在していた。柔らかな照明と落ち着いた雰囲気、静かな常連客と寡黙な店の主人。いつ行っても変わらぬそんな情景の一隅に、あの頃の僕の“居場所”もあった。…

『聖地巡礼』

先日久しぶりに鎌倉に行ってきました。と言ってもいわゆる鎌倉観光ではなく、僕にとっての「鎌倉に行く」とは、イコール「ある人のお墓参り」を意味しますアキ・カウリスマキが「自分の墓碑には『生まれてはみたけれど』(“ある人”の作品名)と刻ませる」と…

八月のレクイエム

蝉の声が聴こえる 遠くの方から聴こえる空気を震わせ 風に乗って 寝ている耳に優しく響くそれは自然がもたらす耳ざわり 思わず “むにゃむにゃ”と口が動く耳に心地良く つい“うとうと”してしまう 風が吹いてくる 遠くの方から吹いてくる森を抜け 街を抜けて …

『night and day』

女が逃げ、男が追う。 女は身を引き、男は身を寄せる。男は誘い、手を差し伸べ、引き寄せようとする。女は抗い、身を振り、離れようとする。でもそこに力は入っていない。女は、ただ“フリ”をしているだけ。 夜の気配は二人に味方している。誰もいないと言う…

『straight,no chaser』

男は、扉を開けるとそのまま奥のカウンターへと向かい、丸いスツールに腰掛け、“足置き”に両足を乗せた。それから両腕をカウンターの上に置き、目線を、真向いの棚に置かれたウヰスキーの瓶に留める。トリス。沢山並んだ洋酒の中から、なぜか、その瓶が目に…

『salt peanuts』

店内に客は1人しかいない。 その男性はカウンター席に座り、グラスを傾けながら、時折マスターと短い会話をしている。どうやら会社帰りのサラリーマンのようで、暗い色合いの無地のスーツと靴、バッグ、それらはまるで制服の様に彼にぴったりと合っている。…

『in a sentimental mood』

朝起きて台所へ行くと、そこのベランダに猫が居た。 中ぐらいの大きさの黒猫で、コンクリートの床に“うずくまって”居るのが窓越しに見える。私の部屋は3階の角にあり、隣の部屋のベランダとは正確に170cmの間がるので、その黒猫がどうやってそこに来たのか、…